●●● 第5章 端境期時代
68回 [始まりはゴルフから]
花市場では、暗黙の了解でいつも同じ場所に座っていました。
当然、周りのメンバーも同じ顔ぶれです。
私の左隣に陣取っていた、市場でも古株の花屋の社長が、
時々同じセリフで、私を誘ってくれました。
「ゴルフせえへんか?」
「ゴルフは面白いで!」
そう言われる度に、「仕事があるから無理ですよ。」
って、答えていました。
私は、大阪店が休みの時には、
あるフラワースクールに講師としてレッスンに行っていましたので、
1日休める日が無かったのです。
でも、店も辞める事になり、当面する事もありません。
ずっ~と、働きづめだった私は、暇でしょうがありません。
(フラワースクールは引き続きありましたので、毎日がお休みだった訳ではありませんでしたが‥)
大阪店を辞める日が、市場に行く最後の日でもありました。
だから市場でお世話になっている、周りのおっちゃん達に
「今日で最後なんです。お世話になりました。」と、挨拶しました。
すると、
「それやったらもう暇やろ、ゴルフでもどうや?」って、隣の席の社長が言うから、
「そうですね~、じゃあ教えて下さいよ」って答えて、今度打ちっぱなしに練習場に行く約束をしたのです。
「いつ行ったらいいですか?」って時間帯を聞いて、ゴルフの練習に行く日を決めました。
そして、初めて練習場に行って、
初めてクラブを握りました。
社長は教えるのが上手です。
ボールがクラブに当たっただけでも、
「上手いなぁ~」って、褒め上手なんです。
ドライバーでたった70ヤードしか飛んで無いのに
「すごいすごい、あの青いライン超えたぞ!!」
って、メチャクチャ喜んでくれるのです。
もともと、学生時代も部活でスポーツしていたので、
体を動かすのは好きでしたし、
久しぶりの「遊び」が楽しくもあったのです。
そして何より、「暇を潰せる」というのが、大きなメリットでもありました。
だからその後どんどんゴルフにはまっていったんですよ。
最初はクラブも借りてたんですけど、
自分のクラブが欲しくなり、買っちゃいました。
その後はゴルフバッグをかかえて、電車に乗って
社長の店まで通っていたんです。
私は、ドンドン上手くなっていきました。
教え上手の社長のおかげでもありますが、
はまると、「トコトン型」の性格のせいでもあります。
いつもの練習開始時間は7時過ぎ頃になります。
仕事を終え、社長の車で練習場に向かうのです。
練習場は11時半までだったと思いますが、
最後まで私は打っていましたね。
それを嫌な顔もせずに、つきあってくれるのです。
社長自身も練習していましたが、
ついて見てくれている時間の方が多かった様に記憶しています。
とっても熱心な私は、社長の弟子になりました。
社長は、人にゴルフを教えるのが好きで、上手です。
私以外にも沢山の弟子達がいました。
社長は、若い時からゴルフをしていた訳ではありません。
それなのに、何故教えるくらいに上手になったのかというと。。。
社長には、3人の息子さん達がいます。
次男さんがプロゴルファーなんですよ。
次男さんをプロゴルファーにする為に、
社長は、ゴルフの勉強をしました。
そして、トレーニングメニューを作り、一緒にトレーニングしていったそうなんです。まるで、さくらパパみたいなイメージでしょうか?
だから私みたいな素人に教える時にも、社長は「真剣」でした。
習いだしてすぐに、ゴルフデビューする事になりました。
練習場デビューしてから、10日ほどでコースデビューしたのですが、
「144」がデビューのスコアです。
広島まで行ったのですが、ロングコースだったにしては、
結構いいスコアだったと思います。
2回目は2ヵ月後の7月にコースを回りました。
この時は「122」でした。
そしてこの日、早めに帰って来た私達は、
社長の別のお店に行ったのです。
社長は、生協さんの取引業者でした。
いくつかの店舗には、置き花としてお花を入れ、
1つの店舗には、専門店として入っていたのです。
この日、その生協さんに入っているお店に、帰る途中で寄ったのです。
市場で仕入れ中に、社長からもう1つ言われていた事がありました。
「生協で教室をしないか?」という事です。
この言葉に対しても、「大阪店もあるし、そんな暇は無い」と断っていたのですが。。。
この日店に寄って、この言葉を思い出しました。
そこで、お部屋を見せて貰いました。
すると、メチャ、「いいんです!!!」
スペースも広いし、ホワイトボードもあるし、
テーブルの大きさや高さもいいし。。。
十分に「お花の教室」が出来るお部屋なんですよ。
そのお部屋を見て、速攻こう言いました。
「お部屋、いいじゃないですか~、教室しましょうよ!!!」
<つづく>
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実は、生協側から、取引業者である社長に、
「花の教室を開いて欲しい」と以前から申し出があって、
そのせいで社長は私に、教室をしないかと声を掛けていたのです。
私は、資格を持っている事も話していましたし、教えに行っている事も言っていましたから、
「先生を探している」社長にとっては、とっても好都合の人間だったんですよ。
今では、市場に若い女性も沢山増えて、「教えられる人」を探そうと思えば、すぐに出てくると思われますが、
おじさんだらけの昔の市場では、生協で教える先生を探すのは、結構大変な事だったのです。
それに組んで一緒に教室を催す事になると、誰でもいいわけじゃないですからね~。。。
市場での私の仕事ぶりに、社長は一目おいてくれていた訳なのです。
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